『われ中!』最終回 ~鬼を笑え!
尾花沢から一山越えた赤倉温泉までは、車で30分ほどである。
この山にあるのが山刀伐峠(なたぎりとうげ)で、芭蕉さんが『おくのほそ道』の旅で越えて来た峠だ。
われわれは、芭蕉さんとは逆コースで赤倉温泉に入った。
もっとも、現在はトンネルができており、わざわざ峠を越えて行かなくても、びゅびゅ~んとトンネルを抜けて行けばよい。
高山森森として一鳥声聞かず・・・な~んつバカ臭い歩きをしなくても、酒臭い息吐きながら、車でイビキかいておればいいのである。
田代館は2年ぶりだった。
前に来た時は、泊らず、食事してお風呂に入っただけだった。
今回はゆっくり話が出来るし、飲める。
ここは、ちょっと見にはアパートみたいな建物だが、清潔で、温泉が良く、鮎や山菜が中心の料理がいいし、金額もバッチしである。
なにより、オヤジさんと女将さんが気さくで明るくて、なおかつ話が面白いのがいい。
例によって、夕食の時、女将さんと話しながら飲んでると、一仕事終えたヤジさんが、ワイン片手に座敷へやって来る。
それからはオヤジさんの独壇場である。
抱腹絶倒、何でもない話がここまで可笑しくなるか、っつくらい笑い転げる。
山形弁丸出しで、そこがまた味わい深い。
ここに紹介出来ないのは、誠に残念だが(酔っぱらってすべて忘れちゃった♪)、オヤジさんの話で一つだけ覚えていることがある。。
それは、
九官鳥に言葉を教える時は、聞こえるか聞こえないくらいの声で言う
っつものだ。
九官鳥に大きな声で言ってもダメなんだそーである。
そーでなくて、「聞こえるか聞こえないか」のビミョな声の使い方をすれば、九官鳥は言葉を覚える、という。
まことに貴重な教訓である。
もっとも、この先この教訓を生かす機会があるかどーか、っつことになると、あれやこれやなはは~♪ではあるが、こーゆー話というのは、覚えていて損はない。
損ではないどころではなく、我らの人生を、実に激しく豊かにしてくれる教訓ではないか!
一見ムダと思えることでも、たくさん知っておいた方が良いのである。
それの方が、ダンゼン面白い。
九官鳥の話が、この先の人生にじぇんじぇん生きてこないっつのがいい。
覚えていても、何の役にも立たないっつところがいい。
さぁ、みんな、覚えようではないか!
九官鳥に言葉を教える時は、聞こえるか聞こえないくらいの声で言う♪
気がつくと、朝になっていた。
珍辰によれば、屁散人は昨夜10時に、ころん、とかあいく寝ちゃったという。
あまりのかあいさに、思わず接吻しようとしたが、鼻から提灯が出ていたので、危うく留まったという。
昼から飲み通しだった上に、オヤジさんの話でブレイクして、気分よく往生したらしい。
朝食前に、おサンポをした。
稲の香が心地よく、道の両側では葛がたくさんの花を咲かせ、芳香を放っていた。
赤倉を去る日の葛の花匂ひ 屁散人
まったくそのまんまの句を、とりあえぬさまして、草鞋ながら書き捨て、田代館を発つ。
っつか、助手席に女将さんが乗り、珍辰が車を運転して赤倉温泉駅に向かった。 ←どーしてこーなったかは分からぬ。
列車が来るまでは20分ほど時間があったが、女将さんは我々が列車に乗り込むまで一緒に駅にいてくれ、見送ってくれた。
今日は、いよいよそれぞれ自分ちに帰る日である。
赤倉温泉駅から新庄に出、そこから新幹線で激しく東京へ行こうっつ計画である。
新庄駅には、11時過ぎに到着。
新幹線は、珍辰が指定券を購入、出発時刻まで2時間ほどあった。
ので、さっそく町に出る。
新庄には何度か来たことがあるが、町をじっくりを見たことは一度もない。
んで、珍隊長が先導してゆく通り、あおばばばぁちゃんも屁散人も、うなだれつつ歩いてゆく。
しばらくして、
「珍ちゃんよ、どこへ向かってんの?」
「別に」
「別にって、何の目的もなく歩いてたのけ?」
「そーだよ」
せっかく新庄くんだりまで来たのに、珍辰は、
ただ歩いてるだけ
なのである。
しかも、わざわざ我々を引き連れて、ただ、
歩いてるだけ
なのだった。
考えようによっては、珍辰の人生そのものがここに表れているのかもしれないし、珍辰だけではなく、あおばばばぁちゃんも屁散人も同じかもしれなかった。
ただ歩いてるだけの我々3人は、余りの暑さに、物陰伝いに歩かねばならなかった。
日蔭もの!
と称賛されても文句は言えない。
炎天下を何となく歩いてるだけの我々は、キッコーセン醤油の店の前でピタリと立ち止まった。
味噌アイス&醤油アイス おいちぃよ~ん♪
を見つけたからである。
それでなくても暑い。
それでなくても味噌・醤油アイスなんか食べたことがない。
いかがなる味であるか?
ご賞味せねばならぬ。
ということで、店に入って味噌アイスと醤油アイスを1つずつ頼んだ。
3人でアイス2つである。
すでに、ここがおかしい。
屁散人は、味噌アイス、珍辰は、醤油アイス、あおばばばぁちゃんは、何も頼んでない。
んで、結果的には、あおばばばぁちゃんは二つのアイスに手を出していた。
おいちぃ生活♪
を実践、実行、敢行していたのである。
居ながらにして「両手に花」っつのはこの事を言うのだろう。
味噌アイスも醤油アイスも、んまかった。
ほんのり味噌や醤油の香りがあり、それがアイスと、んまく溶けあって和風のしっとりとした甘さであった。
ここで一息ついた我々は、駅近くの「ひまわり」という食堂で、昼食兼ビール。
食べた後は隣の納豆屋さんで、お土産を買い、駅の物産館を物色し、コンビニでビールやつまみを買って、颯爽と新幹線に乗り込んだのだった。
平日ではあるが、新幹線自由席は満席になり、すぐに立ち見になった。
指定券を買っておいて、んとに良かった。
こればっかりは珍辰のお手柄である。
鉄道オタク・珍ツーリストの面目熟女である。
それで気分を良くしたのか、かち割氷入りカップに焼酎をがぶがぶ注ぎながら、発車間もないのに早くも酔った珍辰が、
「屁散人の楽譜をくれない?」
という。
「楽譜って何よ」
「バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』持ってんだろ?」
「持ってるけど、それ、どーすんの」
「弾くの」
「誰が」
「おれが」
「おれって?」
「あたし、珍しぇんしぇ♪」
ピヤノ弾く人なら誰でも知ってるだろうが、マイラ・ヘス編曲のこの曲は、聞けば実に簡単そうに思えるのだけれど、素人が一朝一夕で弾ける代物ではない。
屁散人もリパッテの演奏を聴いて、な~んだ、んなもん1日で弾いてやるもんね♪的ノリで始めたけれど、さんざんやって結局弾けたのは、最初の、
ン ドレ♪
↑八分休符ね(パソでどー出せばいいのだろ)
と、最後の、
じゃ~ん♪
だけだった。
楽譜にあるのはオゾマシイばかりのオタマジャクシの大集団である。
それが、動き回り、うねり、高々と舞い上がり、激しく下降し、とても手に負えるもんじゃない。
とーぜん、ピヤノトーシロの珍辰に弾けるわけがない。
「あんねー、屁散人も簡単だと思って始めたの。んだけど、聴くのとは大違い、どんだけ音が詰まってると思ってんの?」
「まかせなさい!んなもんわけないんだから」
すると、前の席に座っているあおばばばぁちゃんが、アイフォンだかアイポッドだかでこの曲が聴ける、という。
あおばばばぁちゃんがあちゃこちゃいじると、リパッテが出て来た。
珍辰、ふむふむ、とうなずきながら聴いている。
終ると、
「よし!決めた!これやるっ!」
「さっきも言ったけど、聴くと弾くとでは、<き>と<ひ>が違うんだぜ」
「いいのっ!もう、決めたのっ!」
珍しぇんしぇ、鼻息が荒くなってきた。
「そ。んじゃ、いつまでに弾けるようになんの?」
「年度末!」
「年度末って、来年の3月31日までっつことけ?」
「そーさー」
珍辰、ふんぞり返っている。
ふんぞり
は、珍辰のいのちなのである。
57歳になり、一家をなし、あとは夫婦二人でゆっくり過ごせばいいと思うのに、これからまだ8年も会社勤めをするという。
これは、ひとえに、
ふんぞり返りたい!
の一念なのである。
威張りたいっ!
の怨念なのだった。
なぜなら、会社でしか威張れないからである。
悲しい珍辰の実像がここにある。
このやり取りを聴いていたあおばばばぁちゃんが、
「発表会やろーね♪」
と言いだした。
「あおばばばぁちゃん、何やんの?」
「私、ワンダホー・ワールド」
「察知物・・・サッチモのあの歌?」
「そー」
「その湾拿捕・・・ワンダホー、何で演奏すんのけ?」
「ピヤノ弾き語りよー♪」
あおばばばぁちゃんが自らこんなことを言い出すのは、奇跡なのである。
たとえば、我々が何かをしよーとすると、
「私、やんな~い」
どこかへ行こうとすると、
「私、行かな~い」
と一人だけ、反対表明をするのである。
そーゆーところに、自分の存在意義を置いているのである。
んだから、「発表会やろーね♪」の所信表明には、正直、ビックラこいた。
ビールから日本酒に移って、屁散人も調子コイてきた。
「んだらよ、横浜開港記念館でやろーじゃんか。あすこは、360人入るホールが、確か半日で2万くらいで借りられるぜ!」
前に句会で横浜開港記念館を使わせてもらったことがあり、その時に見たパンフレットにあった金額を思い出したのである。
3人で割れば、7千円弱である。
人数が増えれば、もっと安くなる。
演奏がへたっぴだっていい、っつかへたっぴ以上になれない我々。
お客なんか来なくたっていいのである。
自分たちが楽しめばよいのである。
やらないわけにはいかない。
「んでさ、屁散人は何やんの?」
「は?」
「屁散人は何を演奏すんのって聞いてんの」
「う・・・」
「少しは、人間らしく生きてみたら?」
「こー見えたって、にんげんだもの」
「何すんの!」
「そ、そ、そーだった、あはは~♪ よ~っしゃ、25年間、我が家で眠っているコントラバスをやってやろーでねーのー」
「それで?」
「あ、あ、そだね。あはは♪ 曲ね。あ、そーそー、お二人の伴奏っつことでどーでしょかね。どーせ珍辰はピヤノの低音部、左手が弾けることは、盛者必滅会者定離的に永遠に出来ないだろし、あおばばばぁちゃんもポンポコ狸的にアヤシイから、そんなもんでどーでしょね♪」
来年のことを言うと、
鬼が笑う
という。
最近は、この言葉の意味が実感を持って迫ってくる。
んとだよ。
それでもね、言ってやるぜぃ!
来年の春、自慰的、自虐的、自奮的ビミョ大演奏会を開くのだ!
笑わば笑え!
泣けば泣け!
屁見庵に着いたのは、まだ夕方だった。
にもかかわらず、屁散人はコオロギに向かってこー叫んでいたのでした。
(おしまい)
★あひ~、やーっと終った終ったぁ。
お疲れさんでした。
やっとこれで、フツーのおじさんに戻れる。
う、う、う~・・・。
昨日、ヘスの楽譜を珍辰にファックしたのだけど、生んでもなければ、ウンでもなければ、フンでもない。
おそらく、あのオタマジャクシの数を見て、失神したのであろう。
来年の3月末までは、7か月。
7か月もある、か、7か月しかない、か・・・。
何をやるにしても、やり始めるのはたった今!
今からだ!
つことで、屁散人は、ベースの調弦の仕方から始めなければならぬ。
悲すぃなぁ、んなことすらじぇ~んぶ忘れちゃってるんだもん。
果たして、ここから進めるや否や。
まずは、飲みながら、でありますな。
ね~ん♪
☆田代館のHPは↓。
http://www15.ocn.ne.jp/~tashiro/
お体重セット(目標:朝の腹ペコ体重=64キロ 7月5日開始)
昨夜の満腹体重=67.4キロ(当初70.8キロ比 -3.4キロ)
朝の腹ペコ体重=65.3キロ(当初68.5キロ比 -3.2キロ)
第3弾 昨日のお貯め(日本国語大辞典購入!目標47,250円 8月31日開始)
お投入=252円
ご累計=2,032円~♪
赤倉温泉郷が向かいに見える。稲が色づいて来た。
味噌アイス・醤油アイス。んまかったよ~ん♪
2010-09-06 15:22
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コメント(2)
ごく当たり前、、、世間一般的な食べ方でイイです、、、味噌醤油はv(^皿^♪)
by emuzu (2010-09-06 15:36)
→emuzuさん
んですね、まろやかで味も日本人にはなじみ深いし、また食べたくなりますよん。
芋煮アイス、なんつのも山形ならアリかもね♪
by 屁散人 (2010-09-07 13:08)