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『われら中年ちょっとだけ探検隊!』~屁見庵の悲しみ 最終回


朝、一番最後に起きてきたのが、珍隊長である。

「雨・露」でテントを直接濡れないようにするため、フライ・シートというものを上に掛けるが、珍隊長は、昨夜、家の中にテントを張るというのに、そのフライ・シートを使った。

そすて今朝、


「なんだー、テントに露がおりてないでないのー」


とつまならそーにフライを撫でていたのである。 ←これ、ホント♪

だいたい家の中にいて、雨にあたったり、露に濡れる方が不思議ではないか。


     ついにここまで来たか・・・


屁散人は、珍隊長の没落という現実に、柱の陰に行くやいなや、ザマミロ的に大笑いコイたのだった。

水眠亭は、展示会があるため、老眼鏡とボールペンを忘れて、8時過ぎに屁見庵を後にしたが、われわれのキャンプなんて、目的も何もあったもんじゃないから、今日何するか、なんつことは決めてない。

たまたま観音崎でフェスティバルをやってるから、なんとなく、そこ行こかぁ、ということになった。

のろのろと着替え、のそのそと準備をする。

すると、


「屁散人、これいらないでしょ、ぼく持って帰るから」


と犬客が言う。

それは、ハウス・ジャワカレールゥ中辛「さわやかな辛さとコクのある深い味わい」220g1箱と、イタリア製「NERO DI SEPPIA」と書いてあるイカスミ・スパゲッテで、昨日、犬客がお土産に、といって屁散人にくれたものだ。

それを、


     屁散人はいらないはずだ


と決めつけ、自分ちに持って帰ろうとしている。

こんなこと、一体誰がするだろうか。

もはや犬客は、まっとーな「犬」でさえなくなったのだ。

一度人を喜ばせておいて、地獄に落とすという陰険さは、まさに、


     陰犬


と言っていいのである。

ただし、かあいそーに、陰犬の目論見はあえなく崩壊したのだった。

リュックにも鞄にも、指の入る隙間がなく、屁見庵に置いておかざるを得なくなったからだ。


「悔しいけど、しょうがない」


と泣きつつ、陰犬は、陰陰犬となり、ますます陰陰陰犬となり、これ以降、表舞台からは、はかない煙を上げて消え去ったのだった。

はてさて、気力を振り絞って、なんとか先を続けなければならない。

以前の『われら中年ちょっとだけ探検隊!』だったら、屁見庵から観音崎まで、歩こね♪ とすぐに一致したはずだった。。

屁見庵からは、10キロほどの距離である。

2時間もあれば行けちゃうのだった。

すかそ、隊長のテイタラクは、隊員をもテイタラク化してしまった。

隊長が、


「電車に乗るのだ、諸君っ!」


と命令を下せば、鼻水垂らしながら従い、馬堀海岸から、


「バスに乗るのだっ!」


と珍隊長が言えば、満員バスにぎしぎしに詰め込まれて、誰も文句も言わない。

バスの中から後ろを振り返ると、雪をいただいた富士山がくっきりと見えた。

東京湾は白波を激しく岸に寄せている。

観音崎ももちろん白波攻撃だ。

風が強く、寒ぶっ・・・。

ということで、ガリバー上陸300周年の上陸セレモ二ーを見ただけで、またまたバスで浦賀に出、鰻の「梅本」へ飛び込んだ。


     イヤなことはしない!

     キツイことはしない!

     楽な方に流れろ!


という『われら中年ちょっとだけ探検隊!』のマニュフェストは、ガッチリ守った形だ。

すかそ、このマニュフェストを見れば分かる通り、これを実行すれば、


     見事にだらける


という結果は分かっており、現在の『われら中年ちょっとだけ探検隊!』のこのテイタラクも、マニュフェスト自体が予想していたことなのだった。

みんなの顔には、意志とか、成し遂げようとする決意とか、明るい未来とか、そんなもんのかけらもないのである。

すかそ、なぜか飲むことだけは、みんな元気だった。

「梅本」で、かんぱちの刺身や、自家製の塩辛なんぞをつまみながら、生ビールや日本酒を飲んでいると、屁散人のケータイにメールが入った。


「12時26分発の横須賀線に無賃乗車して、屁見庵に向かうのだったぁ!」


という黒船堂からのメールだった。


「げっ!」


珍隊長は、黒船堂のことをすっかり忘れていたのである。


「朝、黒船堂が屁見庵に来るってよ」


と、自分で言ってたくせに、自分で忘れていたのだ。

さらに悲しいのは、みんなそれを聞いてるくせに、みんなで楽しく忘却コイてたことである。

んが、ここに全員の、ある、


     意図


が働いていたことはいうまでもない。

すかそ、ここでそれを追求しても始まらない。 

「梅本」で飲んでるから、と返事をすると、小一時間してやってきた。

背中のリュックには、麦焼酎1本と、マグロの刺身が入っていた。

焼酎とマグロを背負って鰻屋にやって来たのである。


     哀れ・・・


という言葉がコーモンを舐めまわす。

われわれの陰険な「意図」を知らない黒船堂は、あっという間に「鉄っちゃん話」に酔ってしまった。

ので、「意図」はついに知られずに済んだ。

ジュエリは、日本酒をぬる燗にして矢継ぎ早に飲んだので、丸椅子に座ったままコックリコックリしている。

隣にいた屁散人は、椅子から落ちないように、ジュエリの頭を引っぱたきながら、忙しげに飲まなければならなかった。

久しぶりに、んまい鰻を食べ、お店を出た時は、まだ日は高かった。

浦賀駅から電車で帰る。

リュックを抱きかかえて居眠りコイている珍隊長は、そのまま電車に放っておいて、われわれは屁見駅で降りた。

電車でいずこへ流されて行こうと、それはそれで自分の人生である。

犬客も、屁見駅で降り、JR横須賀駅へ向かった。

今日は、これから息子に、批難と罵倒と下痢便をいただきに会いに行くのだという。

残ったのは、ジュエリ・八王子と黒船堂である。


「屁見庵、行くけ?」


と恐る恐る尋ねてみると、2人とも、


「行くっ!」


という。

いい加減飲んだのに、まだ飲み足りないのだった。

ジュエリは、「梅本」で撃沈してたのに、屁見駅までのわずか15分の乗車の間に、体力を回復してしまったのだ。

ジュエリは、横浜の自宅から、あの急こう配の箱根駅伝コースを自転車で登り、その日のうちに帰ってくるという、驚異の体力の持主なのである。

あのくらいのお酒で満足するはずがない。

一方、黒船堂は、背中に焼酎一本とマグロの刺身を背負っているのだ。

屁見庵に行って消費しないわけにはいかない。。

屁見商店街の肉屋さんで、ハムカツ1枚、鶏唐揚げ、コロッケ3個を買って屁見庵に登った。

そすて・・・。

やはり、飲んだあとのお酒である。

興奮するのも早かった。

たて笛をピーひゃら吹き、ハーモニカをぶかぶか吹き、口琴をかき鳴らし、楽器箱からいろんな楽器をとり出して遊んでいるうちに、


     やってらんねぇーーーーーーーっ!


と弾けもしないピヤノのフタを、


     ガバ!


と開け、


     ズズジャ ズズジャ!

     ジャジャジャ ギャヂャグヂャ ビャビャジャン!


と鍵盤にひじ打ちを食らわせ、吹けもしないたて笛を、窓を開けて絶叫し、3人の大セッションが始まったのだ。

誰も笛やピヤノやパンフルートなんか弾けやしないのである。

みんなそれが悔しいのだ。


     音が出ればいいっ!

     叫べばいいっ!


んなろー、弾けないんだよ、オレはよっ!

バッキャローっ! 俺だって弾けねぇよっ!

弾けなくたっていいじゃねのっ!

構うもんけ!

音出せ、音出せーーーーーっ!


     うりゃーーーーーーーっ!


んなろー、


     どりゃーーーーーーーっ!



     ズズジャ ズズジャ!

     ジャジャジャ ギャヂャグヂャ ビャビャジャン!


んなろー、


     がぉーーーーーーーーーっ!

     びゃーーーーーーーーーっ!








・・・翌朝。

食い散らかしたテーブルの隅に、ハンカチが置いてあった。

黒船堂の忘れものだった。

少ししみのついたハンカチは、綺麗にたたまれてあった。

取り上げてみると、そのハンカチは、なんとなく、


     コロッケの匂い


がしたのだった。



                   (おすまい)







屁見庵キャンプ・ゴマちゃん88か所 024.JPG

屁見庵のテントの夜。



屁見庵キャンプ・ゴマちゃん88か所 032.JPG

観音崎にて。赤いリュックが珍隊長。帽子を押さえてるのがジュエリ。






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コメント 6

あおばばばぁちゃん

おめでと!
何だか知らないけど目出度いって感じですね。

自戒は女子部(ばば部)も一緒にやりましょ。

by あおばばばぁちゃん (2009-11-08 07:52) 

屁散人

→あおばばばぁちゃん

んだなぁ、みんなお目出度いから、そんな感じに出来上がったのかもね。
4回で終わってえがっだぁ~♪
もっとかかるかと思ってたからね。

女子部も一度女子だけでやってみたら面白いで。
テントと寝袋はお貸ししますので、ハイ♪
箱根あたりはいかが♪ ←極寒キャンプね

by 屁散人 (2009-11-08 08:42) 

水眠亭

先日は美味いウィスキーと美味い燻製(わしの持参品)ありがとさん。それとふかふかの布団で寝かせてもらってね。家の中でテント張って、しかもフライシートまで、信じられん。何よりも、わしの発案で句会が出来たっつうのが一番だね。 あのね、あおばぁちゃん(省略してごめんちょ)
は一緒にやろうといってるでしょ。わしは旅に出るから無理だけど。
屁丼ね、自戒を込めて一緒にやりなさい!
by 水眠亭 (2009-11-08 12:18) 

屁散人

→水眠亭どん

こつらこそ、あのスモークは、んまかったねぇ。
ありがとさんね。
珍隊長のあの没落ぶりは、もう止めようがないもんね。
あとはどこまで落ちてゆくか、楽しみながら飲みましょね。

おー、水眠亭の旅といえば、京都もいいねぇ。
女子部にも勧めおきましょう。
紅葉が素晴らしいんでなくね?
待っててね。
ね~ん♪

by 屁散人 (2009-11-09 06:35) 

あめどん

ほーーらね、さすが水眠亭さん、やさしいわあ。

お会いしたかったです。

それにくらべて珍体調。

証拠の文章にぎってるのね。今回のとま逆なこと書いてさ。
by あめどん (2009-11-09 15:57) 

屁散人

→あめどん

んだ、んだぁ、水眠亭さんは優しいから、押しかけて行ってもダイジャブだぜぃ♪
京都見学もできるし。
ね~ん♪

by 屁散人 (2009-11-10 05:46) 

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