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チョコレートコスモス



     コスモスを摘み取る姿夢に見る


毎月1回、老人ホームの俳句の会に行く。

昨日はその日であった。

先月出しておいたお題は「コスモス」。

果たして作って持って来てくれるだろうか。 

そして今日、句会の席で「コスモス」の俳句を作ってくれるだろうか。

そんな不安を抱えながら、大滝町の花屋でチョコレートコスモスを一鉢買った。

ごく普通のコスモスが欲しかったのだが、すでに花期は過ぎており、店頭に普通のコスモスはなかった。


「これ、結構チョコレートの香りがしますよ」


店員にそう言われて鼻を近づけてみると、たしかにチョコレート色の花からは、チョコレートの香りがした。

会場は、老人ホームの広い食堂である。

机はすでにスタッフによって2列に並べられてあり、例によって、ひとりひとりに鉛筆とコピー用紙が用意してあった。

会場で句会の準備をしていると、車椅子や手押しカートで次々に入居者が集まってきた。

今日の目標は、コスモスの句を作ること。

まずは、チョコレートコスモスの花の香りを味わってもらうために、鉢を持って一人一人の鼻に花を近づける。


「あ、ホントだ」


という人がほとんどだったが、首をひねって、匂いが分からない、という人も何名かいた。

ただ、花を見ると全員の顔が穏やか、和やかになったような気がした。

一人で外出出来る人は、誰ももいない。

花は、現状では外の世界、思い出の世界と自分とを繋ぐことの出来る、唯一の存在なのではないか。

コスモスの句を作ってもらうために、


「○○○○へこのコスモスをプレゼント」


の○○○○部分を埋めてください、と言った。

誰か好きな人、お父さんでもお母さんでも、子供さんでもお孫さんでも、昔の恋人でもいいから、このコスモスを皆さんの好きな人にプレゼントしてください。

たとえば、


     青空へこのコスモスをプレゼント


のように、人間へのプレゼントでなくてもいいです。

そうして、考えてもらっている間、スタッフにお願いして、コスモスに触ってもらえるよう、鉢を持って一人一人回ってもらった。

その時だったか……。

一人の女の人が激しく泣き出した。

Aさんは、70歳台と聞いていたが、実際は60歳台くらいに若々しく見えた。

車椅子である。

手がすでに言うことを聞かず、ロレツも回らない。

Aさんは、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)であった。

9月に入居したときは普通に話せていたのに、この2ヶ月間で、早くも言葉を聞き取るのが難しいような状況になってしまった、とスタッフは言う。

筋萎縮性側索硬化症という難病は、脳から筋肉を動かす命令が届かず、故に筋肉が萎縮して、最後は肺を動かすことも出来なくなって死亡する、という恐ろしい病気である。

原因不明であり、病気の進行は早く、発症から3~5年でほとんど死亡してしまうのだという。

ただし、痛みなどの感覚は通常であり、意識もクリアであり続ける。

その分、苦しみの奥も深いのだ。

Aさんが泣いた理由は分からない。

コスモスで何かを思い出したのか、あるいはこれから先、自分に起こることを恐れ、不安になったのか……。

スタッフが優しくじっと抱いていると、少し落ち着いたようだった。

結局、「○○○○へこのコスモスをプレゼント」の句は、たった一人を除いて、誰もできなかった。

そのたった一人が、Aさんだった。

Aさんが詠んだ句は、




     わたくしへこのコスモスをプレゼント     




冒頭の句も、Aさんの句である。






江ノ島下見・富士見亭・トリス 004.JPG

江の島「富士見亭」より。
トビが目の前を舞い上がり、滑空する。


※ただ今、どういうわけかソネット全体でコメントが出来なくなっているようです。
 復旧まで忍耐強くお待ちください。
 書き込めるようになったら報告しますゆえ。
       

[アート]第9弾 昨日のお貯め(○○を買おう! 8月16日開始)

     お投入=175円~♪ 
     
     ご累計=12,613円~♪


■昨日のあんよの歩き(目標1時間以上!)  
  
 [船] 2時間50分

 ・屁見庵→ヴェルニー→大滝町→若松トンネル→汐入→(浦賀道)→屁見庵

 ・屁見庵→汐入→若松町→横須賀中央

・京急田浦←→老人ホーム

 ・汐入→屁見庵






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コメント 4

ame

なんか涙が出ちゃった。
by ame (2013-11-07 19:19) 

屁散人

→ameさん

このような出会いがあるとは思いませんでした。
本を読むのが好きだけれど、ページをめくれないので、めくりやすいようにスタッフがゴムの指サックをあげたそうです。
句の「わたくしへ」という表現に高貴なものを感じます。
病が進むと、寝返りさえ自分ではうてなくなるそうです。
痒いところも自分ではかけず……。

by 屁散人 (2013-11-07 21:15) 

あおばばばぁちゃん

ameさんと同じ。
知り合いに同じ病気ではないけれど、段々筋肉が萎縮している病気と戦っているひとがいるのですけれど、
誰も助けてあげられないんです。

by あおばばばぁちゃん (2013-11-08 09:11) 

屁散人

→あおばばばぁちゃん

今の医療では全く手がでないようですね。
可能な限り快適に過ごせるように、というのが精一杯のところのようです。
しかし、それも手が足りなかったりして、本人の希望とおりにはなかなかいかないらしい。
人工呼吸器をつけるかつけないか、なども本人にとっても、家族にとっても重い問題ですね。


by 屁散人 (2013-11-08 14:53) 

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